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平成22年度税制改正③ 移転価格文書化に係る新事務運営指針

Client/Legal Alert
15 July 2010
平成22年度税制改正の一部として、移転価格文書化規定の強化の動きがありましたことを本ニュースレター(平成22年度税制改正② 移転価格文書化に係る改正と留意点 )でもお知らせ致しましたが、この度、6月22日付けで「移転価格事務運営要領(事務運営指針)」(以下、事務運営指針)の一部改正があり、移転価格文書化につき更なる指針が示されました。

事務運営指針は本来、国税長官から国税局長に対する「命令」であり、国税局および税務署の職員はこれに拘束されるものの、納税者に対しては法的拘束力はありません。しかしながら、国税当局の運用方針が示されていることから、英語でも通称“Japanese Transfer Pricing Guideline(日本の移転価格ガイドライン)”と呼ばれており、納税者にとっても日本の移転価格税制の実際の運用方法を知る為の極めて重要なガイドラインとなっています。従って関連者間取引のある企業におかれては、今回の事務運営指針の改正内容も踏まえて移転価格文書作成を行うことが必要となります。

今回の移転価格文書化に係る事務運営指針の主な改正点は次の3点です。

1.対価の額が決定された過程等について考慮すべき点の明示
事務運営指針2-2には「調査に当たり配意する事項」が挙げられていますがこれまでの(1)、(2)(関連者間取引の利益を“レンジ(適正な範囲)”でとらえること、製品のライフサイクル等に鑑み対価や利益を“複数年度”でとらえること等が記されています)に加え、(3)が新設されました。これは、本年度の税制改正大綱(案)において示されていた、「取引価格交渉過程の検討を要する場合における留意事項を明確化する」という点を具体的に示したものです。

2-2(3)では移転価格調査等において、国外関連取引に係る対価の額が交渉により決定された過程等について、以下のような点を考慮するべきであるとしています。
  • 各関連者の業績評価と移転価格の関係
    関連者間取引価格が、各関連者の業績を適切に評価するために独立企業原則を考慮して決定される場合があるということ
  • 日本法人又は国外関連者に複数の共同出資者がいる場合の関連者間取引価格交渉への影響
    複数の共同出資者がいる場合、国外関連取引の当事者以外にも当該共同出資者などが交渉の当事者になる可能性があるということ

上記の2項目は、実際の関連者間取引において日常的に見られることであり、それらを調査の際にも考慮することが明記されたことは納税者にとっても一つの安心材料ではあると思われます。

しかしながら、2-2(3)の(注)では、“国外関連取引に係る対価の額が厳しい価格交渉によって決定されたという事実、国外関連取引の当事者以外の者が当該国外関連取引に係る取引条件等の交渉の当事者となっている事実又は国外関連取引に係る契約の当事者に法人及び国外関連者以外の者が含まれているという事実のみでは、当該国外関連取引が非関連者間取引と同様の条件で行われた根拠とはならない”とあり、交渉過程のあり方が関連者間取引価格の妥当性を証明することにはならないことが明記されています。すなわち、実務上の取扱いとしてはこれまで通り、納税者側が「対象取引の相手は合弁会社であり、一方の親会社である日本法人が取引価格を自由に設定する単独の決定権を持ってはおらず、その取引価格は双方の親会社の間の厳しい交渉の末に決定されるのであるから、当該取引価格は独立企業間原則である」との主張を行なったとしても、税務当局がその事実を持ってこれを受入れることはなく、結局、納税者としては取引条件等の交渉過程等の詳細を記録した資料等を保管しておくことはもちろんのこと、それに加えて比較対象取引等を探し、取引が独立企業原則に従っていたことを証明しなければならないこととなります。

2.移転価格文書の提出期限について
事務運営指針2-5には「推定規定又は同業者に対する質問検査規定の適用にあたっての留意事項」が記されていますが、その中の(1)に(注)1が追加されました。(注)1には、法人税特別措置法第66条の4第6項(推定規定)に規定する独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(いわゆる移転価格文書)の提出期限について書かれています。具体的には、当局の調査担当者が納税者に対して移転価格文書の提示又は提出を求める場合には、必要と認められる範囲内において、納税者に対し期日を定めて当該提示又は提出を求める、としています。当該期日は、納税者の意見を聞いた上で準備に通常要する期間を斟酌して定める、とされていますが、提出期限を定めることが明記されたことで、期日に間に合わない場合の推定課税の可能性がより高まったとも言え、文書化規定が一層強化されたと言えるでしょう。実際のケースでは、国外関連者に係る財務データ等が請求された場合、その提出の必要性について(特に日本法人がいわゆる“外資系企業”であり、国外関連者が親会社である場合)国外関連者の合意が得られず、提出が遅れる、あるいは出来ない場合が見受けられます。納税者が日本法人を検証対象企業としてTNMM(取引単位営業利益法)を適用しようとする場合などには、外国親会社において、国外関連者の財務データの提出は不要であると主張されるケースもよく見られますが、国外関連者の財務データは日本の税務当局がほとんどのケースにおいて提出を要求する資料であり、また、本年の税制改正により租税特別措置法施行規則22条の10に列挙された提出書類の中に、“法人及び国外関連者の当該国外関連取引に係る損益の明細(22条の10(1)ヘ)”も含まれていることから、国外関連者データの不提出は推定課税へとつながる可能性があります。納税者としては、移転価格文書が速やかに提出できない場合には、その合理的説明を調査担当者に対して行い、提出期日の設定において考慮してもらうことも必要ですが、何よりも常に国外関連者と連携して、日本の規定に沿った移転価格文書を作成・アップデートし、提出を要求された場合には、期限内の提出に応じられる態勢を整えておくことが重要となります。

3.推定課税を行う場合の“理由”の説明と、移転価格文書の再提出の可能性
上記の事務運営指針2-5には、(2)が新設され、納税者から提出された移転価格文書が、措置法第66条の4第6項(推定規定)で規定する書類に該当しない場合の取扱い等が追加されました。

具体的には、当局が、納税者が提出した書類では独立企業間価格の算定ができないと判断し、推定課税を行おうとする場合には、納税者に対しその理由を説明する必要がある旨が記されています。これまでも、推定課税を行なう場合の理由の説明は納税者に対して行われておりましたが、実体としては納税者が提出した書類が不十分であることの明確な理由が税務当局から示されることは少なく、説明と話し合いの場は形式的なものであったといえます。このような状況により、提出した書類の妥当性が税務当局側の裁量によって判断されているとの批判が納税者側から多く聞かれました。今回の事務運営指針に説明の必要性が明記されたことにより、税務当局からの具体的かつ明確な説明が必要とされるようになったため、納税者が提出した書類の妥当性を判断する上において、税務当局側の裁量の余地が少なくなることが期待されます。

また、(注)として、当該書類が不正確な情報等に基づき作成されたものである場合には、“正確な情報等に基づき作成した書類を速やかに提示又は提出するよう求める”と記されており、移転価格文書の再提出の可能性を示唆していると言えます。しかし、どのような場合に、実際に提出した移転価格文書について当局が“不正確であるため再提出を求める(正確とは言えないが、即、推定課税を行うほどのレベルではなく、納税者にもう一度チャンスを与える)”と判断するのかは不明であり、再提出の機会がないまま、推定課税へとつながる可能性も考えられます。また、再提出となった場合には、期限に間に合わせる為に、熟慮しないまま資料を提出し、かえって納税者本人に不利な結果を招くこともないとは言えません。納税者としてはやはり、再提出の可能性には頼らず、一度目の請求で“正確な”移転価格文書を提出できるよう、日頃から備えておくことが必要です。
 
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